特定非営利活動法人 ニューマン理論研究・実践・研究会

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対話集会

活動報告

Activity Report

2017年度第3回ニューマンプラクシス学習会を開催いたしました。

 寒波のさなか、第3回学習会が開催されました。テーマは「意味ある出来事について対話に踏み込めないナースたちへのヒント」です。第3回学習会はアドバンスドコースでもあり、ニューマン理論に導かれたケアを実践したい願いを持っていながらも、一歩踏み出せないでいる参加者が、「一歩踏み出したい願い」のもとに集まりました。事例提供は3題ありました。   

事例提供Ⅰ  
幼い子を遺す若い母親の決断の過程を共に歩んだナースの気づき
~プライマリーナース・緩和ケア専従ナースそれぞれの立場から~
発表:石井あかね、佐藤裕子(神奈川県立がんセンター)
ファシリテーター兼:宮原知子(神奈川県立がんセンター)DSC03743

患者Aさんのプライマリーナースであった石井さんと看護チームは、がんの進行が早く若くして死に直面しているAさんとその家族のニーズに沿ったケアに必死に取り組んでいました。しかし、日々痛みが増していくAさんへの疼痛緩和に悩み、石井さんは緩和ケアチーム専従のニューマンナース佐藤裕子さん(以下:裕子さん)に相談をしました。裕子さんは理論に導かれるがまま、Aさんと対話のケアを行いました。裕子さんとの対話の中で、Aさんは一貫して子供への深い愛情を繰り返して語り、それはまさにAさんが、「自分にとって何が大切なのかを確認しながら、自分の信念を研ぎ澄ましていく」過程そのものでした。そして更に裕子さんとAさん夫婦の対話を通して、Aさん夫婦は、子供にとって最善な方法を考えてそのことを実行しようということに至り、家族としての今後の進むべき方向を見出したのでした。この過程を裕子さんと共に振り返った石井さんは、手術室勤務の経験が長かったこともあって、安全第一と問題解決思考で看護ケアを実践し、今まで患者さんの体験にあまり関心を寄せずにきた自分のケアパターンに気づき、これからニューマン理論を基盤としたケアを学び実践していきたいことを表明しました。
上記の発表に対してフロアから出された1つ目の質問は、情報の共有のあり方についてであり、カンファレンスや看護記録の活用などの可能性が話し合われました。裕子さんと同じ立場で活躍する参加者からも、守秘義務を守りつつ病棟看護師らと連携する方法について活発な意見交換がされました。続いて、患者がパターン認識をした瞬間はどのように捉えられるのかという話題に及び、遠藤先生から、その時点ではわからなくても後になって表情や言動など、患者の全体が変化した様子が捉えられれば、おそらく患者がパターン認識をしたのだと解釈して良いという説明があり、そのような文献もあることが話されました。最後に、病棟管理者の宮原さんからはニューマン理論に導かれた見方を病棟内に浸透させていきたくても、入院期間の短縮化が進み、ナースが二交替勤務の中、いつ、どのように患者・家族とナースの対話の機会を組み入れたらよいかということは容易なことではなく、これはこれからの課題であろうという話がありました。

 

事例提供Ⅱ
M.ニューマン理論に基づく‘生活習慣立て直し’を支援する看護師の学習会に参画したことでの学び~自己のパターンへの気づきと患者の見方・捉え方の変化に焦点をあてて~
発表:小沢香(北里大学病院)
ファシリテーター:児玉美由紀(北里大学病院)

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小沢さんは過去に「CNSによるニューマン理論を基盤としたナースへのアプローチの研究」に参加し、自己のケアパターンをみつめる体験をしています。更に、再発に苦悩する患者と「人生で意味深い出来事や人々」について対話し、患者が自己洞察を深め成長する姿をパートナーとして体験し、ニューマン理論を看護実践の礎にしたいと思うようになったそうです。その後、病棟勤務から化学療法室に異動となり、心身ともに疲弊しながらも治療を続ける患者の苦悩を問診室で聴く毎日に、小沢さん自身も辛くなり悶々としていたそうです。そのような中、児玉さん(ファシリテーター)から、ニューマン理論を基盤とする対話に重きを置いた「‛がん患者・家族の生活習慣立て直し’を支援する看護師の学習会」へ参加の誘いを受けました。4回シリーズの最終回「心の持ち方」をテーマにした会では、がん体験者の語りをVTRで視聴しました。そこで、小沢さんは「がんによって気づきを得た」と笑顔で話す体験者の声を聴き、日々ケアしている患者を思い浮かべ、「つらい気持ちで治療を続けていくべきなのだろうか?こんな風に笑顔でいることの方が大事なのでは?」と正直な気持ちをその学習会で口にしました。すると、その場にいたナースが、「みんながみんな最初から笑顔ではなかったのかもしれない」と話した言葉が小沢さんに響きました。そして、笑顔に至るまでにはそれぞれの過程があること、患者の苦悩を聴くうちに「こうあれば楽なのに」と自身の価値で患者を捉えていたことに気づいたそうです。会の参加者同士のパートナーシップの体験を通して自身の苦悩から解放された小沢さんは、今では患者の持つ力を信じること、生活を切り口とした対話をすることで患者自身が自己効力感を取り戻せるよう支援していると生き生きと語りました。DSC03805
意味ある出来事について対話に一歩踏み出せないでいる参加者へのヒントとしては、自分の迷いや悩みを素直に表現すること、更に、ナース同士の対話や相互作用を通してナースが自己のパターンに気づき、囚われから解放されることが大切だと発言されました。フロアからは、この学習会に参加する他のナースたちの気づきや変化が語られ、ナース同士のパートナーシップにより、患者の捉え方や向き合い方に違いが生まれると分かち合いました。

 

 

事例提供Ⅲ
終末期患者との意味深い対話~その「意味」について考える~
発表:佐藤陽子(神奈川県立がんセンター)
ファシリテーター:宮原知子(神奈川県立がんセンター)

緩和ケア病棟に入院した患者Bさんのプライマリーナースであった佐藤陽子さん(以下:陽子さん)は、Bさんと「人生における意味深い出来事や人々」についての対話を、時期を変えて2回持ちました。1回目は、陽子さんは「Bさんのことをもっとよく知りたい」という願いのもとで対話に誘い、Bさんの全体像への理解を深めることができました。Bさんは一度自宅療養を経て、再度緩和ケア病棟に入院しましたが、がんの進行に伴う身体症状が悪化する中で、「これから俺はどうなるんだ?」と、苦しさと先が見えないことで大きな混乱の時期に入りました。陽子さんは「今こそがBさんにとって今までの人生に意味を見出す時だ!そのケアをBさんは必要としている!」と瞬時に判断しました。陽子さんの問いかけは1回目の対話の誘いと同じです。しかし、2回目の陽子さんのケアの意図は1回目とまったく異なり、相手を理解しようということよりも、Bさんが自分自身の人生の意味をつかむ過程を支援するという意図が明確にありました。Bさんは陽子さんと共に、改めて自分の人生を振り返りました。Bさんの語りの中心であった奥さんとの出会い・結婚について、「その意味について考えてみませんか?」という誘いに応えるように、Bさん自身が築いてきた愛情に満ちた家族の意味をつかみ、そこから生まれた溢れんばかりの感謝の気持ちを、自ら家族に伝えるという新しい行動を起こしたのでした。DSC03788
事例提供に続いたフロアとの対話を通して、「人生における意味深い出来事や人々」についての対話のケアは、患者・家族のさまざまな局面で活用することができることが再確認されました。また、陽子さんから対話のケアを実践するために、仲間の存在の重要性や、お互いが同じ目的を持ち実践を磨きたいというナースの意思のもとで、互いに支援しあうことも必要だと提案されました。フロアからも、たとえ今が、ニューマン理論の知識が基盤になく慌ただしい病棟でも、「○さんはどんな人?私にはこう見える」というように患者を理解するようなカンファレンスを開催し、日々の実践を通して患者・家族を理解するトレーニングを継続するうちに、変化しつつあるという体験談も出され、願いと勇気を持ち続けることの大切さが確認されました。

 

 

参加者同士の交流「自分に対する気づきと明日からの一歩」
後半は、3題の事例提供と対話を受け、「自分に対する気づきと明日からの一歩」と題し、6グループに分かれ参加者同士の交流の場を設けました。参加者個々が自分の置かれた状況、組織の文化や風土、価値観などを含めた自己の理解を語り合い、ナースとしての自己のパターン認識を促進するためのヒントについて多くの意見が出されました。参加者の所属機関は急性期病院、療養型病院、大学などと多岐にわたっていました。まずはその人にとって良い看護になると思うならば、自己のセンターに立ち実践していくこと、意味ある出来事についての対話を意識しすぎないこと、例えば、患者や家族の大事にしていることや想い出について聞いても良いことが話されました。対話における「看護業務との兼ね合い」については、患者とコミットするには時間も必要であり周囲の理解が必要であると話されました。スタッフの理解を得ることと仲間作りに関しては、スタッフ全員の理解を得ることは難しいため、まずは自分が実践して、患者が大切にしていることをスタッフに伝え、共有していくことから始めてみてはどうかという提案がなされました。また、ナースへの個別的なアプローチとして個々の経験年数、性格、反応、感性、看護観を知りながら仲間に繋げていくことや、他のナースが良いケアを実践していると気づいた際にプラスのフィードバックを行い、周りにもその成果を伝え、そのナースが内面からニューマン理論を用いたケアをやりたいと思うことをサポートしていくことも大切なことだということを参加者と共有しました。遠藤先生からは、「ナースは勉強好き。面白いと思ったことは興味を示す。勉強会を開催するなら、月1回ペースで、他のナースから見える部屋でオープンな環境下で行うと良い」と具体的な勉強会の持ち方も紹介されました。

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今回の学習会は、対話に踏み出す一歩のヒントを得たいという共通の願いを持つ参加者が全国から集合しました。発表や対話による相互交流により個々が互いのヒントとなり、刺激し合い、ケアリングし合い、明日からの一歩へ向けて一つになりました。波紋が広がりパワーを充電させた中で、閉会となりました。今後、私自身も含め参加者の皆様がどのような一歩を踏み出しているのか、楽しみでなりません。

                                担当:鈴木貴美

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