10.262021
第15回 対話集会レポート (10月17日)
みなさま、こんにちは。COVID-19感染の第5波が落ち着きつつある状況ではありますが、昨年度に引き続き、オンラインでの開催となりました。65名の方が全国各地からご参加くださり、充実した対話のひと時を過ごすことができました。
まずは理事長のスピーチ、引き続き「パートナーシップのケアに踏み出そう!初心者から学ぶヒントとポイント」をテーマにお二人からの話題提供がありました。
1.「COVID19 Pandemic: A World of No Boundaries」
理事長 遠藤恵美子
昨年から、私たちはCOVID-19の世界的な感染拡大の中に身を置いています。スピーチの冒頭では、“Pandemic”は国境を越えた世界中すべての人々に、そして“boundaries”は境界がない、という言葉の意味が説明されました。まさにコロナCOVID-19のPandemicは、世界には境界がないことを証明したのだと理解しました。さらに、ニューマン先生の論文やマーサ・ロジャース、ケン・ウールバーの主張をもとに、私たちは物事を二つに分けてみてしまう傾向があることが話されました。つまり「境界」はもともと存在するものではなく、私たちが作っている人工物なのです。「例えば、ニューマン理論に基づく実践と研究を重ねたプラスシス・リサーチをしているとき、あなたは、“これは看護実践か研究か”と自分に問いかけ、区別をしようとしていますか?」このように問いかけられ考えた時、私はきっと、目の前の患者さんやご家族のことを一生懸命に考え、語りに耳を傾けているだけだろうと感じました。きっと、参加された皆さんも同じように思われたのではないでしょうか。つまり、実践でも研究でもない、あるいは両者であるとも言えます。線を引いて考えると、片方が際立ち、片方が消えてしまいます。理事長のスピーチを聴き、境界線を引くことが人々の成長と変容を妨げていることを理解し、パートナーシップのケアは双方の中に存在する境界に気づき、それを解き放つことで、両者に成長と変容が生まれるということを理解しました。境界は人工物なのだからこそ意識的になくすことができる、つまり私たち次第なのです。このことを胸におきながら、日々の看護や教育など、それぞれが置かれている状況に向き合いたいと強く思いました。
2.対話「「パートナーシップのケアに踏み出そう!初心者から学ぶヒントとポイント」
ファシリテーター:副理事長 三次 真理
引き続いての対話では、初めてパートナーシップのケアに踏み出したときに直面した困難とその乗り越え方に焦点が当てられました。三次副理事長からは、これまではあまり話題の主題にしてこなかったテーマであるが、決してHow toにとらわれずに、その意味を考えてほしいという願いを述べられ、対話が始まりました。
1)「積極的治療の最終局面に差しかかった乳がん患者との初めてのパートナーシップからの学び」
話題提供者:鳥取県立中央病院 樹下和江さん
乳がん看護認定看護師の樹下さんは、以前にプラクシス・リサーチに挑戦されたがん看護専門看護師の池田牧さんに刺激を受け、患者Aさんとのパートナーシップのケアに踏み出す決心をされたそうです。Aさんはこれまで長期にわたり一生懸命治療を継続してきましたが、ほとんどご自身の思いを口にされない方でした。しかしある日、ふと一言の思いをこぼされたのをきっかけに、「今がパートナーシップを組む時だ!」と感じ、面談を開始することになりました。そうしてパートナーシップが始まったものの、樹下さんは面談の方法にとらわれてしまい、なかなかAさんの語りからパターン認識の核となる関係性や意味を見出せず、これでいいのか?と悶々とする日々が続きました。しかし、池田さんがいつも考えを言語化することを助け、Aさんの語りの意味を一緒に考えるプロセスを繰り返してくれたことで、Aさんのパターンとその変化が見えるようになった、同時にいつも自分自身に矢印が向いてるという、自己のパターンに気づくことができたと語ってくださいました。そして発表の最後には笑顔がみられました。
発表後の対話では、真摯にAさんと向き合い続けて成長した樹下さんに参加者から称賛の声が上がるとともに、池田さんのサポーターとしてのありようにも関心が集まり、お二人の相互作用が生んだケアであったのだと実感しました。最後に遠藤理事長より、面談は“対話”であるから、看護師は分からないことは自己のセンターに立ってはっきりと相手に尋ねてもよい、それによって相手は気づき、自己のパターンを認識することも大いにあるのだと、貴重なヒントもいただきました。
2)「造血器腫瘍患者の看護に困難を感じる看護師とのパートナーシップ~初めて踏み出した私のカオスと成長~」
話題提供者:湘南医療大学 倉橋悠子さん
倉橋さんは、NPO-HECで開催されているプラクシス・リサーチ6回コースに参加しており、そこでの対話を含んで、造血器腫瘍患者の看護に携わっている看護師Bさんとのパートナーシップを実践した体験をご紹介くださいました。最初の面談から、Bさんは医療者にたいする怒りのような感情を表出され、倉橋さんは圧倒されたそうです。長時間に及ぶ面談を必死で逐語録に起こし、表象図を作成しましたが、語りの意味やBさんのパターンも何も見えずとても苦しかった、と当時の胸の内を素直にお話しくださいました。最終的に、自分では懸命にパートナーシップのケアに取り組んでいるつもりが、課題をこなすことが目的になっており、Bさんに関心が向いていなかったこと―ひいては、目の前のことに追われ、自分の解釈でのめりこむ自己のパターンに気づきました。
このことに気づけたことでAさんの変容を支援できたのですが、そこに至る過程は容易ではなく、非常に苦しいものでした。この壁を乗り越えられた理由は、友人からの「苦しくてもそれでいいのだ、逃げずに自分を見つめることが大切」「苦しさを乗り越えれば、見える世界が必ず変わる」という言葉や、指導者からの愛情あふれる叱咤激励があったことでした。何度も倉橋さんが内省し、変容することを信じてくれた人がそばにいたことが大きな力になったのです。自己のパターン認識をしたあとの倉橋さんは、Bさんとのパートナーシップのありようだけではなく、壁にぶつかった時も大切なものは何か?と立ち止まることができるようになり、生き方さえも変化したと語っていました。
発表後の対話では、ケアリング・パートナーシップの面談内容のフィードバックの時には、相手に「自分が解釈したことを静かに伝え、静かに聞いてもらう」というポイントが共有されました。そして、面談は相手が自分のパターン認識をすることを助けるために行うのであるが、相手は「自分のことを話すのだ、あるいは教えてあげよう」という認識をしていることが度々ある。だから、パートナーシップの目的、つまり自分のことを話すのは、「自分自身について考えることだ」ときちんと伝えることの重要性が再確認できました。
お二人の体験に共通しているのは、サポーターの大切さです。ケアをする側のナースにとっても、自己のパターンを認識することは難しく、誰かの手助けが必要です。豊かな環境として寄り添ってくれる人があってこそ、ナースも変容できるのだと思いました。ご自身の体験をありのままにお話しいただいたお二人のおかげで、参加されていた方もパートナーシップのケアに踏み出す勇気が芽生えたのではないかと期待しています。コロナ禍で様々な制限を受ける状況はまだ続きますが、ケアの波紋が広がっていくように、少しずつ前に進んでいきましょう!
(文責:松井利江)
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