特定非営利活動法人 ニューマン理論研究・実践・研究会

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2021年度 第3回学習会レポート

お知らせ

3.162022

2021年度 第3回学習会レポート

ホームページをご覧の皆さま、こんにちは。

 過日、2022年2月13日(日)に第3回学習会がオンラインで開催されました。当日またはオンデマンドでご参加くださいました皆さま、ありがとうございました。

 今年度の第2回・第3回学習会は、「ニューマン理論とケアリング・パートナーシップのケアのつながりとは、実際のところ、どのようなことなのだろうか。私にもできることは、どのようなことだろうか」という共通テーマのもとで企画いたしました。第2回学習会の終盤で、参加者の中から「パートナーシップのケアのエッセンスを目的的に実践に入れ込み、行動してみよう。その過程を、第3回学習会に持ち込み、対話を通して、ニューマン理論の観点から考察を深めてみよう‼」とお誘いしたところ、自薦他薦を含め6名の方が事例報告者として候補に挙がりました。11月28日の第2回学習会からおよそ2か月間、それぞれについたサポーターの支援を受けながら、ニューマン理論のエッセンスを掲げ、実践に臨み、その過程を報告してくださいました。事例のテーマと発表者の方々は、以下の通りでした。

事例1:三好こはるさん(北里大学病院)

 つらい病気体験の中で患者が自分らしい生き方を見出すとき ~M.ニューマン理論に基づく実践報告~

事例2:小栗藍子さん(東海大学医学部付属八王子病院)

 豊かな環境としてのナース 健診センターでのわずかな時間での対話からの学び

事例3:濱田寛子さん(なごみ訪問看護ステーション)

 最期まで自宅で過ごすことを選択したAさんと私の相互作用のプロセス ~Aさんからのギフト~

事例4:吉森香奈子さん(東海大学医学部付属八王子病院)

 聴くことの形にこだわる自己のケアパターンにきづき、正直に自分の思いを伝え豊かに交流する関係へと一歩を踏み出す

事例5:佐藤陽子さん(神奈川県立がんセンター)

 M.ニューマン理論に基づくスタッフの共育 ~人材育成の視点から~

事例6:藤枝文枝さん(青梅市立総合病院)

 青梅市立総合病院でのHECによる看護実践 ~急性期外科系病棟で3年目看護師とのパートナーシップの事例紹介~

 一つひとつの事例は、ニューマン理論のエッセンスを反映し、誠実な相互作用の様子が描かれていました。事例提供とその後の対話の内容から、実践から浮かび上がってきた【理論のエッセンス】をご報告します。

【患者と看護師のパターンが変われば、それは家族全体のパターンの変容を生みだす】

 三好さんは、乳がんで脳転移を抱えた女性への治療方針の変更に関わった場面を紹介してくれました。「入院患者の状況や思いを一番知ることができるのは看護師である」という信念のもと、患者のもらした「なんかつまらない」という一言をきっかけに、三好さんは患者との関係性を深めていきます。徐々に、治療を止めたいという患者の真意と、できるだけ治療を続けてほしいという家族の思いのズレに気づきました。医師を交え治療方針について話し合いを進め、患者と家族は治療を中止し自宅療養することを決めました。三好さんの事例を通して、患者と家族をまだよくわからない“ミステリー”な人とみて、そこに関心を寄せ近づき、やがて互いの波紋が交わり始めると、一気にその変化は家族全体が変容するという理論のエッセンスとの結びつきが映し出されました。

【検査データという部分は、その人全体を知るための糸口である】

 健診センターでの実践事例を報告してくださったのは、小栗さんでした。小栗さんは、長年定期的に健診を受けながらも生活習慣の課題に取り組めない女性との短い保健指導の時間を使って、女性の健康体験に近づきながら、女性自身が自分の生活習慣の改善に取り組む決意に至った過程を披露してくれました。この取り組みを通して、小栗さんは「多くの健診者のノルマをこなす」ケアから、「短い保健指導の場面での検査データという部分をその人全体を理解するための糸口」として、自分自身の看護の意味が進化したと話してくれました。ニューマンの看護ケアは、必ずしも長い時間を必要としないという力強いメッセージもいただきました。

【自分の関心ごとはいったん手放し、ありのままのその人全体を理解する】

 訪問看護師としての実践を紹介してくれたのは、濱田さん。終末期にあるがん患者の男性とケアリング・パートナーシップのケアに踏み出しました。濱田さんは、「“ねばならない”にとらわれ、いつも自分の関心ごとに目が向いてしまう私」と向き合います。その自己のケアパターンに何度もうんざりしながらも、サポーターのフィードバックを受けつつ理論書に立ち戻りながら患者とのパートナーシップを継続しました。内省と実践、そして再び内省を繰り返す過程で、サポーターからのフィードバックをきっかけに「はっ」と自己のケアパターンの意味をつかむ瞬間が訪れました。「そうか、自分の関心ごとである“パターンを探そう”として、そのことが患者の全体性を理解することを阻んでいたのだ」と気づき、ニューマンケアには役に立たない自己のケアパターンを手放そうと決意しました。そして改めて患者の元に行き、「I care you ! 」を伝え、相手の波長に合わせ相互作用に意識を向けると、患者はそれを大歓迎し、新しい関係性が生まれました。

 新しい自己のケアパターンを得て歩みだした濱田さんは、この自己のパターン認識が、家族との関係性や同僚との関係性の変化へと波及したと語ります。全身全霊をかけて“全体性とはこういうことだ”と教えてくれた患者との関係性は、まだまだ拡張を続けていくだろうと締めくくりました。

【自己のセンターに立ち、その人自身が自分をもっと理解することを手助けする】

 放射線科外来勤務の吉森さんは、「外来患者のちょっとした“おやっ?”を動物的な勘で探り当てる私」と自分を紹介しました。多くの場合その勘は的中しており、吉森さんはタイムリーにじっくりと話を聴くケアを大切にしてきました。その一方で、「ただ聞くだけ。同調していただけ」としか感じ取れず、専門職である看護師として疑問を抱くこともありあました。その疑問を常に頭の片隅に置きながら、さまざまな機会を捉えて自己を開示し、看護師同士の対話を持つように努力していました。何かヒントを得たいとニューマン理論の学習会に参加したことをきっかけに、「時間をかけてじっくり話を聴く私」から「気になっていることがあれば、それを正直に相手に伝える私」への進化に向かって踏み出しました。

 吉森さんの動物的な勘、“おやっ”という感覚は、患者に関わるための大きなきっかけとなっていました。その勘を患者のパターンの変化を瞬時にとらえるための勘と見るならば、それは看護師としての勘です。看護師としての勘を働かせて、患者のパターンの変化をとらえよう意識的になるならば、やがてはその人自身が自分をもっと理解することを支援すること、すなわちニューマンケアの目的と重なり合っていくことを共有しました。

【進化の過程は一定方向に進む。看護師の進化も決して逆戻りはしない】

 看護科長として臨床看護師の人材育成に関わっていた佐藤さん。新人看護師が新しい業務へと拡大していく時期に、インシデントが増えたことが気がかりでした。プリセプターもまた、「新人看護師の〇さんは、今までできていたことができなくなった。まるで前の〇さんに戻ったみたいだ」と、どのように支援したらよいのかと悩み苦しんでいるようでした。佐藤さんは、ニューマンの“人間全体としての健康の過程”の図を用い、新人看護師がもとに戻った訳ではなく、必死にチャレンジしているように見えること、さらにプリセプターも責任をもって新人看護師の支援に向き合ってくれているように見えることを、プリセプターに説明し勇気づけました。そして新人看護師に対しても、いまの苦しみに大きな共感を伝えながら、ニューマンの巻貝の図を示して、その底辺にある看護ケアの重要性を説明しました。以来、新人看護師とプリセプターのパートナーシップは続けられ、やがて年度末になると、新人看護師は、寄り添いのケアの底辺に含まれる“基本的な看護技術や看護上の判断力”を身に着けることの重要性を理解し、さらに自分の課題を明確に説明することができたと紹介してくれました。

 看護科長の立場にあっても、ニューマン理論を通して目の前の現象を見るならば、どのような困難に出会おうとも、“一定方向に進化している看護師たち”という見方ができます。看護管理の視点からもニューマン理論の大きな可能性を明示してくれました。

【全体性の見方は、ひとりの看護師から患者や同僚、そして看護チーム全体に波及する】

 青梅市立総合病院では、ニューマン理論に導かれた看護実践の実現に向かって、病院全体での取り組みを始めました。その中で、心を閉ざしているように見える患者と、その受け持ちであった若手看護師、そして先輩看護師(藤枝さん)のパートナーシップの過程を紹介してくれました。全体性の見方に立った看護師と患者の相互作用の様子を知る機会を得た若手看護師は、患者と自由に対話を進める先輩看護師の様子を目の当たりにし大きな衝撃を受けました。先輩看護師は、対応に困ってどのように声をかけたらよいのか戸惑っていたその患者と、対話を通して一緒に次の目標を見つけていったのです。

 先輩看護師のケア場面に衝撃を受けた若手看護師は、全体性の見方に魅力を感じると同時に、患者に備わっている力の大きさに衝撃を受け、「自分の気持ちを患者に言えないまま気持ちを閉じ込めていた私」に気づきました。日々誠実なケアを通して信頼関係を深めながら、「いまがチャンスだ」と感じた瞬間、一歩踏み出し、正直な自分の気持ちを患者に伝えました。すると看護師の正直な気持ちに呼応するように、患者もまた正直な気持ちを次々と語るようになりました。この変化は、ひとりの若手看護師だけでなく、多くの病棟看護師の前でも開示され、だれもが患者の変化を歓迎しました。

 この取り組みは、これからも続きます。対話の中で、青梅市立総合病院小平看護局長さんから発言があり、「現場の看護実践で“意味を見いだすケア”が広まり、全体性のもとでその波紋が拡がることを楽しみにしています」とコメントをいただきました。

 

遠藤理事長講演「COVID19 Pandemic: A World of No Boundaries(3)」

 この回は、No Boundariesシリーズの最終回です。

  健康と病気の間に、境界線があるわけではない

  理論と実践の間にも、境界線はない

  芸術と科学の間にも、境界線はない

  研究と実践の間にも、境界線はない

  看護理論と、看護理論の間にも、境界線はない

このBoundaries(境界線)とは、人工的なものであり、それによって争いが生じている。これらは、私たちがつくりあげたものである。このBoundariesを取り除くならば、変容・進化が生まれる。(Margaret A. Newman 2003)

Covid-19のパンデミックが生み出す偏見と差別、戦争と迫害など、世界を取り巻く情勢は、人間が作ったBoundaries(境界線)から生み出されたように思えてなりません。私たちに、私たちの日本に、そして世界に、No Boundariesが浸透し、人々や世界の変容・進化が生まれるためにはどうしたらよいのでしょうか。このテーマは、これからも私たちNPOの主要なテーマの一つになるでしょう。

(文責 宮原知子)

 

 

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