NPO法人ニューマン理論・研究・実践研究会のホームページをご覧になっている皆様こんにちは。今回は2016年10月23日に首都大学東京荒川キャンパスで開催された第10回対話集会の模様をご紹介します。今年度の対話集会もさわやかな秋晴れのなか開催され、昨年度同様に全国から72名の方が参加してくださいました。
まず理事長である遠藤恵美子から開会のあいさつがありました。参加してくださった皆様を歓迎する言葉とともに、特定非営利活動法人(NPO)としてニューマン理論・研究・実践研究会が2016年8月2日に東京都の認証を受けたことが報告されました。本対話集会は、ニューマンの健康の理論のより深い理解とそれに導かれた実践的能力を高めるための学習、啓発、普及活動として、NPO法人の事業のひとつとして非常に重要なものでもあると紹介され、大いに楽しんで、たくさん学んでくださいとの激励の言葉がありました。
発表者:大政智枝さん(神奈川県立がんセンター)
ファシリテーター:松江利江さん(天理医療大学)
大政さんの発表は、武蔵野大学大学院修士課程における実践的看護研究の報告でした。
大政さんは、看護師であり研究者として、骨髄移植後4か月目で移植後合併症を予防しながらの生活になじめずに困難感を抱いていたAさんとそのご主人とパートナーシップを組みました。ニューマン理論に基づいた対話は、移植後フォローアップ外来における看護ケアのひとつとしてスタートしました。
1回目の面談では、Aさんご夫婦にとって白血病という疾患と治療が大きな関心事であり、「人生の意味ある人々と出来事」についての対話には至らなかったそうです。それでも大政さんはご夫婦の関心事にも心を込めて耳を傾けたそうです。すると、2回目の面談からはAさん夫婦の人生の語りが始まり、3回目の面談では、Aさん夫婦は自分たちを取り巻く人々、関係性から洞察を得て、「迷ってもよい」「いまを生きればよい」と白血病や移植後の身体状況とつき合い方にあたらしい一歩をふみだし、さらに生と死、喪失体験の意味についての深まりがあったそうです。
発表後の会場からの質問は、「ケアリングパートナーシップのケアとして疾患や治療によって特徴があると考えるか」、「面談を始めるきっかけとなった患者さんご家族の様子を知りたい」、「面談の内容のフィードバックをどのように進めたのか聞かせてほしい」などの声があり、活発な意見交換となりました。ケアリングパートナーシップのケアに対する関心の高さがうかがえました。
遠藤先生から自分のパターンは自分ではなかなかわからないものあり、面談後にフィードバックされることでわかる場合が多いので、しっかりしたフィードバックがとても重要であり、大政さんの実践的研究から学ぶことは多いと思うとコメントがありました。三次先生からは、パターン認識を促進するフィードバックの方法としてニューマン理論をよく知っているナースが参加者のたくさんの語りの中から参加者の生き様がよく現れているエピソードを抽出して、それを表象図に描いていく過程と、表象図を用いた参加者へのフィードバックの実際について解説がありました。
最後に大政さんからは、パターン認識のためにはフィードバックの時に表象図を示すとともに、自分が思ったことを正直に伝えること、「私にはこう見えました」と返していくことが、その人が、自分自身のあり様に気づくことにつながると思うので重要であるとの言葉がありました。
臨床ナースが、ケアリングパートナーシップのケアへの理解を深め、実践に踏み出すためのヒントが多く得られた報告となりました。
発表者:宮原知子さん(神奈川県立がんセンター)
ファシリテーター:児玉美由紀さん(北里大学病院)
発表者:宮原知子さん(神奈川県立がんセンター)
ファシリテーター:久山幸恵さん(静岡県立静岡がんセンター)
宮原さんの発表は武蔵野大学大学院博士課程におけるミューチュアル・アクションリサーチの報告でした。この研究は9月にアメリカで開催されたNewman Scholars’Dialogue,2016でも発表され、多くの参加者から賞賛を受けています。
宮原さんは緩和ケア病棟の看護師長でした。「がん終末期にある患者とその家族が、苦悩の中にあってもがん体験がその人にとって意味ある体験となるようなケアを目指す看護師とは、どのようなものであるか」、また「そのような看護師はどのように創出されていくのか」に関心を持たれていたそうです。そこで、ミューチュアル・アクションリサーチという手法を用いて研究に取り組まれました。
ミューチュアル・アクションリサーチ(以下MAR)とは、ニューマン理論に基づき、遠藤らが2001年ごろに発表したニューパラダイムに準拠する研究方法です。研究者と実践家看護師がパートナーを組み、グループ内で実践事例に関する対話を通して看護師らが自己のケアパターンを認識しながら、また実践にもどり、その過程で看護行為能力と自律性を高めていき、それを患者ケアに反映さしていくという、協働型のアクションリサーチです。
宮原さんは緩和ケア病棟の看護師17名と10カ月に渡ってパートナーシップを組み、月2回「対話の会」を設けました。対話の会で語られた内容は個々の看護師にフィードバックされると共に、病棟全体へもフィードバックされ、対話の会に参加した看護師も、そうでない看護師も内容を共有できるように努力したそうです。
研究者と看護師らのパートナーシップの過程では、ニューマン理論に基づき、「健康」の概念の捉え直しが進み、「緩和ケア病棟における患者・家族にとっての意味深いケア環境を創出していく過程」として、4つの局面が開示しました。まず初めの局面では、いままでの「病棟看護師のケアのパターン」が見え、それを乗り越えて緩和ケア病棟におけるケアの本質に迫っていったとのことでした。
発表後の会場やファシリテーターからは、「それまでの病棟看護師のケアパターンはどのようであったのか」、「病棟看護師に浸透させるにはどのようにフィードバックをすると良いのか」、「研究のデータ分析では、“推進力は何か”を念頭に置いてみたのか、それともまっさらな状態で見たのか」などの質問があり、研究結果のみにとどまらず、そこに至るデータ分析方法についてなどにも質問がおよび、活発な意見交換となりました。
このMARに参加していた看護師からは、現在は入院してきた患者に対し、早期からプライマリーナースが患者・家族にとっての‘意味ある出来事’の視点から患者の話を伺い、カンファレンスで紹介し、その人をより深く理解してケアしていこうとすることが浸透しているとの報告がありました。2つの発表は、きわめて実践的、優れた研究であり、参加者は多様な学びができたように思いました。
対話集会の最終プログラムであるグループでの対話のひとときでは、今年度も6つのテーマをもとに対話が進みました。今回は「ニューマン理論を実践するナースの成長:自らのケアパターンを振り返ろう!」のテーマの関心が高く、2グループに分かれました。
私(坪井)が参加した「ニューマンの健康理論に基づく看護介入」グループでは、ニューマン理論の学習を始めて今感じていること、心に残った患者さんとのかかわりで感動したことなど、多々現場で体験したことの語りがありました。ファシリテーターの方やメンバーの方々から温かい励ましの言葉が多く聞かれ、ニューマン理論に導かれた看護実践に踏み出してみようという刺激を強く受けたという声が多々聞かれました。
対話のひとときは、毎年好評なプログラムです。やさしい気持ちになるとともに明日からの看護に新たな方向性が見えてくるひとときであるからだと思います。
遠藤理事長のスピーチでは、9月7~8日にアメリカのニューマン先生の故郷であるメンフィス市のテネシー大学看護学部で開催された“Newman Scholars’Dialogue,2016”に,14名の教員や看護師とともに参加された報告がありました。そこでは三次真理さんと宮原知子さんが研究を発表され、より実践に近い研究をしている日本の2名の研究者の発表に、会場からはしばらく声も出ないほどの絶賛を頂いたとのことでした。
Dialogueの会場では、会長が日本でのNPO法人設立の報告をし、ニューマン先生には、NPO法人設立記念としてオルゴールをお贈りし、とても喜ばれたとのことでした。メロディはリスト作曲の「ラ・カンパネラ」です。鐘という意味があり、このNPOの活動が鐘の音のように、高く、広く拡散することを願っての曲目の選定ということでした。
参加者の皆さんは一人ずつニューマン先生とお会いになり、自己紹介されたそうです。その様子が楽しそうな写真で紹介されました。詳しい内容は、年度末に会員の皆様に送付されるニューズレターにてお知らせされる予定です。
更に、ニューマン博士が卒業されたテネシー大学の健康科学センター看護学部では、ニューマン博士の看護理論における功績を称え、その継続と発展を目指して、看護理論に関連した教授のポジションの確保とそれを維持すること(Professorship)への努力を開始し、募金活動が始まっているというお話もありました。そして、Dialogueに参加された方々は、それぞれ祝儀袋に寄付金を入れて、担当者に渡した旨報告がありました。また、この対話集会の会場でも、40名の方がこの企画に賛同され、寄付金を投じてくださいました。ニューマン博士が看護学に与えた強い影響を称えるとともに、これからのナースたちのために博士が残した遺産の継続にご賛同を頂ける方は当ホームページwww.uthscalumni.com/newmanをご覧ください。
2017年(平成29年度)も第11回の対話集会を開催いたします。多くの方との対話を通じて、お互いに進化・拡張できればと願っております。どうぞ、ご参加くださいませ。お待ちしております。
文責:坪井香、鈴木貴美
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