特定非営利活動法人 ニューマン理論研究・実践・研究会

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2018年度 第12回ニューズレター

2018年度 第12回ニューズレター

はじめに

皆さま、こんにちは。今回は2018年10月28日に首都大学東京荒川キャンパスにて開催されました第12回対話集会の模様をお伝えいたします。
 今年は、前日に開催されました2018年度第2回学習会と共に天候にも恵まれ、全国からニューマン理論に関心を抱く42名の方々が参加してくださいました。はじめに遠藤理事長から挨拶があり、徳の倫理という難しいテーマではあるけれど、自由に新しい自分を出して、“アドベンチャー”を楽しんでほしいとの言葉で始まりました。またその挨拶の中で、アメリカ メンフィスで療養されているニューマン先生の近況についても伝えられました。「傷つきやすさ、苦悩、疾病、死は、私たちをおとしめはしない(Newman/手島,1994/1995,pp.124)」との言葉通り、ニューマン先生の意識の拡張のプロセスが平安で高く、無限であることを参加者の皆さんと心から祈りました。
続いて宮原副理事長が、「ニューマン理論に流れる倫理観~全体論のもとで関係性と文脈を重視した徳の倫理~」と題して、今回の対話集会のテーマについてお話がありました。徳の倫理とは、「何をすべきか」や「結果がどうあるべきか」ではなく、「私はどのような人であればよいのか」、「善い人とはどのようなものか」との側面から倫理観を問う考え方です。ニューマン理論に流れるこの徳の倫理観について、全体論の見方から目の前にいる患者・家族の関係性や文脈を踏まえて、ありのままの個性を尊重し、その人にとって善であることは何か、私はどうあれば善いのかと自己のセンターに立って判断を行い、行動し続けることと伝えられました。
テーマを設定して話題提供を展開する試みは、今回の対話集会がはじめてでした。関心はあるけれど、どこか難しさも併せ持つ「倫理」の側面から、3つの話題が提供されましたので、私の考えを交えながらご紹介いたします。

第12回 対話集会

日時:2018年10月28日(日) 10:00(9:30開場)~16:00
場所:首都大学東京 荒川キャンパス

対話Ⅰ 自分らしく生きることを選択した患者から学んだ意思決定支援のあり方

提供者:木村智美(公益財団法人天理よろづ相談所病院)
ファシリテーター:倉持亜希(大森赤十字病院)

関西圏でもニューマン理論に導かれる看護実践の輪を広げたいとの願いから2015年に発足した「奈良ニューマン理論・実践学習会(N-HEC)」のメンバーである木村さんは、40歳代の卵巣がん患者Aさんの意思決定支援からの学びについて、一語一句からAさんへの感謝が感じられる丁寧な口調で会場全体に語り掛けてくださいました。
Aさんは医師から、「手術で寛解できる可能性が高い」と説明を受けましたが、「手術はせずに女性であることを大切に生きたい」と自然療法を選択されたそうです。木村さんはその時の気持ちについて、衝撃を受け、「手術を受けて助かってほしい」と強く願い、その後も「本当にこれで良かったのだろうか」とAさんのことが度々脳裏に浮かんだと振り返られました。そして、心配していたことが的中・・・。数か月後に、がんの急激な進行により入院となったAさんとの再会場面について次のように話しました。

木村さん「お会いできなくなってから、ずっと気になっていたのです」
Aさん「私のことを覚えてくださったのですか?」
「色々悩んだけれど、後悔はしていません」

この時、Aさんは笑顔で木村さんに握手を求めてきたそうです。しかし木村さんの心には「本当にこれで良かったのだろうか」と昇華できない気持ちがしこりのように残ったとのことでした。その問いは、自身の看護実践に映し出される価値観や倫理観、すなわち核心を問うものだと思います。木村さんはこの事例をN-HECに提示し、メンバーの寄り添いを得ながら、自身の心にその問いを投げかけ続け、「命あることが何より大切。病期に応じた医師が勧める治療を受けることが最善」という自己の抱く価値観の認識に至ったとのことでした。そして意思決定支援には、患者を深く理解し心から寄り添うことが大切だとまとめられました。
参加者の皆さんとの対話では、意思決定支援の際に、自身が認識した自己の価値観と患者自身が抱く価値観の調和をどうするか?ということが話題の中心となりました。患者にも生きてきた人生があるように、ナースにもそれぞれの人生があり、そこで育まれた価値観や倫理観はありのままに、それが善と思うのであれば、それを相手に伝えることも意味深く、その後はどのような選択であっても尊重する支援が善いのではないかと対話が発展しました。
「治療が最善」との木村さんの価値観には、取り除くことのできない木村さんの人生全体が反映しています。そこには、「あなたの大切な命を守りたい」という木村さんの真摯な思いが反映しているようで、それはAさんにも届いていたように私は感じました。

対話Ⅱ 特有な世界観を持つ患者との関りを通じて
~Margaret Newmanの「健康の理論」に流れる徳の倫理からの考察

提供者:森谷記代子(湘南中央病院)
ファシリテーター:遠藤恵美子(NPO法人ニューマン理論・研究・実践研究会理事長)

 この日の森谷さんは、鮮やかな若葉色のブラウスを着て、やや緊張した面持ちで話題提供者の席に着きました。そして、ファシリテーターとして隣に座る遠藤理事長に見守られる中で、訪問診療に同行する看護師として出会った40歳代乳がん終末期患者Bさんとの関わりについて報告してくださいました。
 Bさんは離婚しており、10代の娘Cちゃんと二人暮らしとのことでした。乳がん発見当時、手術可能な病状であったBさんでしたが、自ら化学療法を選択。しかし思うように効果が得られず自己判断でその治療を中断したという過程を辿り、疼痛増強などにより通院困難に陥ったために訪問診療を開始されたそうです。
 森谷さんはBさんへの感情や関係性の変化について、丁寧にそして正直に振り返られました。訪問診療開始時は看護師として必要と考えられる正しい医療的な知識・技術を提供するも、激しい感情の起伏と共にそれを拒まれることが続き、Bさんに対して陰性感情を隠せなくなったそうです。そこで行き詰った森谷さんは、チームに相談し、「全体を捉える見方を意識して、B親子の最善を考えることが必要」という認識が生まれ、自身がどうあれば善いのか?と思いをめぐらすことができ、まずは見方を変えることから始められたとのことでした。そして医療的な行為ではなく、Bさんの人生全体に関心を寄せて寄り添うことで、多くの苦悩を孤独の中で抱えながらも必死に生きてきたBさん自身とCちゃんへの深い愛情が見えてきたと述べ、見る者の見方の変化により見られる者の見え方の変化、そしてケアの変化、さらにはお互いの相互作用の変化について、まざまざとその違いを伝えてくれました。
最後にニューマン理論に流れる徳の倫理について、「力になりたい、理解したいと強く願い、勇気、誠実さ、愛などに裏打ちされて、自己のセンターに立って行動することである」と述べ、B親子からの学びに理論の理解を交えた言葉で発表をまとめられました。   
会場に参加されていた種村健二朗先生から、「看護の個別性と医療の平等性」という観点からコメントがありました。医療・看護の現場には、正しいとされる多くのルールが存在します。例え医療者にとっては正論であり、またリスク管理の側面からも優先されることであっても、それぞれに異なる個の立場から考えると、それが正しいか、優先されるべきかは、全く別であることをよく理解できました。
さらに、森谷さんの話題提供を会場で見守ってくださっていた訪問看護師Dさんからも、森谷さんとは異なる立場でB親子との関わりについて発言がありました。その言葉の端々からはB親子との深い関係性や愛情が溢れていました。特にBさんの希望で訪問看護が中止となったことついて、「生活保護だからBさんに自己負担はないのですが、社会に貢献したいとの願いから訪問看護を断ったのだと思います」と、Bさんを理解したDさんの言葉からは、社会で生きるひとりとしてのBさんの価値観に触れることができ、Bさんへの理解が大きく広がり、会場内は温かい拍手で包まれました。
最後には、Bさん逝去後に撮影された、森谷さんとDさんの間でほほ笑むCちゃんの写真がスクリーンに映されました。ひとり娘を残して逝かなければならず心を痛めていたであろうBさんも安堵しているように私には感じられた和やかな一枚でした。また題名につく「特有な価値観を持つ」という言葉は、看護師側からの見方であるので、「特殊な世界観を持つように見えた」と修正したほうがよいというコメントがあり、学びが一層深まりました。

対話Ⅲ 周手術期患者のリハビリ意欲を高める関わり
~全体性のパラダイムに立って患者を理解したとき、見えてきたもの~

提供者:本田彩(東京医科大学八王子医療センター)
ファシリテーター:早川満利子(東京医科歯科大学
医学部附属病院)

 外科病棟の看護主任として活躍中の本田さんから提供された話題は、60歳代膵臓がん男性患者Eさんのリハビリ意欲を高める過程で学んだ患者全体を理解することの重要性についてでした。看護師としての豊かな経験にニューマン理論の学びが巻き込まれるように生かされた看護実践を繊細に振り返られて、参加者自身の体験にも引き付けて考えられるような話題でした。
 術後感染症を併発したEさんはリハビリに対して積極的な姿勢を見せなかったため、看護師達はその重要性を説明したそうですが、Eさんからの反応は無言やため息ばかりでベッド上での生活が続いたとのことでした。看護師達は、「廃用症候群を予防しなければ」、「退院後の生活のために体力低下を防がなければ」と医療・看護の決められている側面からリスク予防の必要性を考え、それを繰り返し伝えました。しかし、Eさんがリハビリに参加しないという「問題の解決」は容易ではなく、“Eさんは関わりづらい困った患者”という思いが看護師達に膨らみ、踏み込めない関係性が築かれているように本田さんには見えたと語りました。そこで本田さんは、Eさんに今必要なケアはリハビリの説明ではなく、寄り添う存在が「必要だ!」と思い、このチャンスを逃さなかったようです。その時の様子は、本田さんが記述した抄録の言葉を借りれば、「Eさんと看護師達の間にヒラヒラと舞っていた透明なカーテン」が開かれ、パートナーシップの関係性が築かれていった様子がありありと浮かんできました。
 Eさんと本田さんとの2回の対話の中で、学生時代は勉強、社会人になってからは仕事と何事も一筋で生き抜いてきたEさんが、退職後は妻との平穏な暮らしを願っていたにもかかわらず、それが叶わぬような術後の展開から脱する糸口がわらかなくなっていたようでした。この状況を理解した本田さんが、「奥さんと一緒に過ごすために、できることを探しているのですね?」と、Eさんの言動の意味を投げかけたことで、それが弾みとなって、「まずリハビリである」という次の大きな一歩をEさんは踏み出せたようでした。
本田さんはこのプロセスを看護師達に伝えると、看護師達は安堵した様子を見せ、その後Eさんと和やかな表情で共にリハビリなどに取り組めるようになったと話されました。そして今後の目指す姿として、「患者にとって善い行いとは何かを考え、患者から見える世界に関心を寄せて関わり、患者の力を信じてそこに留まるナースでありたい」ということを強調されました。
参加者との対話では、Eさん全体の理解がより深まったと共に、全体性のパラダイムからの見え方やケアの波及について話題となりました。本田さんは、「自分は意図して巻き込むことが苦手」であるが、「知らず知らずのうちに周囲が巻き込まれてくる」などと語り、そこには周囲との関係性のパターンが映し出されました。そのことを認識した本田さんは、がん看護専門看護師そして看護主任として「患者さんや看護師達の苦悩に寄り添っていきたい」と自身の立場を意識した次の一歩を考えられたようでした。
「まずはリハビリ」と看護師達が目指していた方向性をEさん自身の口から聞くことができ、行動につながったこの看護実践から、そこに辿り着くまでのプロセスに注目すると、看護師の考え方や見方の違いがあり、ケアに違いが生じることを私は実感させられました。

グループでの対話のひととき

「徳の倫理観の特徴について理解を深める」をテーマとして、6つのグループに分かれて対話のひとときを過ごしました。私が参加したグループでは、臨床の中で体験する医療者として“善”だとする考えや善い結果を求める行為に縛られがちであるが、「本当にこれでいいのだろうか」と揺れる心境があることなど、日頃感じていることを共有しました。互いに理解し合いながら対話を深める中で、それぞれがユニークな存在である個を尊重して、寄り添うことの重要性に気付かされると共に、私達自身もユニークな
存在であることを認識し、「多様性と一体感」に心地よさを感じるひとときでした。

理事長スピーチ

続いて遠藤理事長から、2018年10月7~8日に北海道で開催された第22回統合医療学会大会での指定交流集会とポスターシンポジウムの概要が報告されました。指定交流集会は、「全体論のパラダイムに準拠する疾患/非疾患を合一化した健康とケアリングパートナーシップに関する理論と実践事例紹介」をテーマとして、理論について(遠藤)、および「ターミナル期にある娘と老父母」(浅野)、「造血幹細胞移植後1年未満である夫婦」(大政)、「緩和ケア病棟ナース自身らがクライアントらにとっての意味ある環境になろうというナースとしての健康生成の過程」(宮原)の3事例を紹介したという報告がありました。
またポスターシンポジウムでは、健康の増進というテーマの下で、①本理論の概要とそれを踏まえたがん疾患・生活習慣病の考え方(三次)、②グループで取り組む生活習慣の見直し支援のプログラム作成上の工夫と実例(諸田)、③実践例1:がんサバイバーと家族らとサポーターの取り組み(遠藤)、④実践例2:がん看護に携わる看護師および訪問看護師らとサポーターの取り組み(飯尾)、⑤実践例3:がん看護を学ぶ看護学生らとサポーターの取り組み(今泉)、⑥生活習慣の見直し支援活動に参加したがん看護を学ぶ大学院生の気づきと変化(倉持)。これら6つの発表を行い、参加者との対話が広げられたとのことでした。
この対話集会の参加者の皆さんにお配りしたとうもろこしのお菓子はこの学会参加でのお土産とのことで、美味しくいただきました。

おわりに

ニューマン理論に流れる倫理観というテーマに沿って、ナースにとって実は日常の中にあるような具体的な事例をもとに対話を持つことで、自己の看護実践の中に流れる倫理観に触れる機会になったのではないでしょうか。私自身も豊かな環境となってくださった参加者の皆さんとの相互作用により、内なる基準となる倫理観を認識でき、少し成長させてもらえたように思います。
2019年には、第13回の対話集会(首都大学東京)を開催いたします。また同年夏には奈良県に始まっているN-HECでミニ対話集会も計画しておりますので、特に関西圏在住の方はこの機会にご参加いただければ幸いです。今後ともNPO法人 ニューマン理論・研究・実践研究会をよろしくお願い申し上げます

文責:濱田麻里子

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