NPO法人ニューマン理論・研究・実践研究会のホームページをご覧になっている皆様こんにちは。今回の対話集会は、雨天が心配されましたが、なんとか天候に恵まれ全国からニューマン理論に関心を抱く46名の方々が参加してくださいました。
昨年度の対話集会は、「徳の倫理」をテーマに据えたプログラムでした。今年度は、わがNPOの活動全般に「改めてニューマン理論の基本を押さえよう」というメッセージを込めて、対話集会もテーマを置かずニューマン理論と実践のつながりについて広い視点から話題提供を募りました。今回の3つの話題は、本NPO法人の事業の一つである「プラクシスコース」で取り組んだ内容でした。(なお、プラクシスコースとは、ニューマン理論に基づく研究と実践を結び付けたプラクシスの学習会を年6回開催しているコースです。)
最初に鈴木貴美教育理事から、参加してくださった皆様への歓迎と雨天に負けず意義深い機会となる対話集会にしていきましょうという言葉から始まりました。続いて遠藤理事長より、本NPOロゴマークについてお話がありました。
「このNPO法人ニューマン理論・研究・実践研究会のロゴマークは、立体的な巻貝を平面的に上から見て拡張するさまを表しています。底辺にある医学的な指示で行われる看護行為も、患者の不足した機能を補おうとする目的の看護ケアも重要な看護であるけれども、ニューマン理論の立場から見れば、それだけでは不十分です。もっと患者さんやご家族の全体性に近づき、パートナーシップのケアのもとで、患者さんやご家族のパターン認識とそのパターンが示す意味を中心とした意識の拡張、すなわち健康体験の促進を支援するケアの実践に向かって、私たち看護師もまた進化を続けましょう。」
提供者:濱田麻里子(川崎市立井田病院)
ファシリテーター:早川満利子(東京医科歯科大学医学部付属病院)
看護学生の頃にお母様との死別体験に苦悩を抱えていた濱田さんは、ニューマン理論を学び物事への見方や意味が大きく変容しました。その体験を礎として臨床経験を重ねるなかで、女性にとって大切なライフタスクである結婚・出産・育児休暇を経て復職した濱田さんは、当初、新しい職場環境に迷惑をかけまいと萎縮し、身構えからスタートしたと言います。そこでニューマンの「苦悩の中にも意味があり、その意味を掴むことが成長のチャンスになる」という言葉に勇気づけられ、奮闘し、仲間と相互作用が深まる体験をしました。そこで、自分自身のありようを研究テーマとしてプラクシスコースに持ち込みました。コースでは、自身の看護実践、病棟看護師との関係性など丁寧に記述した自己内省ジャーナルをデータとして、自己のありようが開示している部分を抽出し、全体を見てその変化の過程を局面として捉え整理することに取り組みました。
局面1では“迷惑をかけまい”と自分を制限する一方で、理論に導かれる看護実践や仲間作りへの思いに駆られた不安定な時期、局面2では病棟内での役割(看護倫理の担当)が与えられ、その役割を考える中で、周囲から自己を閉ざし傷つくことを恐れているありようを認識した時期、局面3では看護倫理メンバーとの相互作用と共に、自己のありようへの洞察が深まり、周囲との関係性構築に向けて新たな一歩を歩み進めた時期、局面4では開催した倫理学習会の環境に身を委ね、病棟看護師が秘める力を信じて相互作用を深めた時期、という4つ局面が見出されました。
これらの局面を概観すると、苦難な時も成長過程の一部であり、そのような時にこそ、自己のありようを認識することが助けになること、仲間作りは数人からであっても、その仲間との相互作用を経て、病棟内に拡がっていくこと、理論を指針として実践に取り込むことで、実践と結びつき導かれることを学んだと話しました。さらに “仲間”には境はなく、育児休暇中で現場を離れている時間も途切れているのではなく、全てが看護師としての濱田さんの一部であり成長の過程であるという新しい意味を創りだした過程でもありました。
この内容は、さらにブラッシュアップし、看護実践の科学に掲載されました(→先日、出版されました ぜひ、読んでみてください。ニューマン理論・研究・実践研究会の広場, 全体論に導かれる看護の仲間作りへの取り組み過程で現れた自己のありようの探求―出産・育児休暇後,新しい環境に配属された私の“身構え”からの解放. 濱田 麻里子,他. 看護実践の科学, 45(1), p78-83, 2019)。
ファシリテーター早川さん(左)と発表者の濱田さん(右)
提供者:高野美子(相模原協同病院)
ファシリテーター:井本俊子(関東中央病院)
ファシリテーターの井本さん(左)と発表者の高野さん(右)
次の話題提供者である高野さんがパートナーシップを組んだのは、緩和ケア病棟の看護師たちでした。ここで看護師は、患者と家族の苦痛を問題と捉え、その問題を解決しようと努力していましたが、患者・家族が抱える難しい問題に直面した時にどう対応したらよかったのかという迷いや不全感を体験していました。それを知っていた緩和ケア病棟看護師長から「寄り添う過程の意味に着目できる看護理論を拠り所に持った看護師に成長して欲しい」という願いを受け、ニューマン理論を実践に導入すべく、試行錯誤しながら全3回の学習会を企画・運営した過程が紹介されました。
高野さんは、プラクシスコースにこの学習会の運営について相談し、さまざまなアドバイスを受けながら取り組みました。しかし、頭で描いた通りに進むほど現実は甘くありませんでした。1回の参加者は数人で、さらに継続した参加者の確保が困難であったこと、学習会の準備が思いのほか手間取ったことなど、リアルな体験をもとに、次に生かせる提案を話してくれました。困難を体験しながらも、参加者が自分の価値観に気づくことや「もっとニューマン理論を理解したい」という前向きな意見が聞かれたことは、高野さんのエネルギーになりました。病院組織の中でこのような学習会を成功させるには、看護管理者の理解と協力、実践家看護師の仲間づくりが大きな推進力となることを教えてくれました。対話では、今後、緩和ケア病棟看護師の一人であるがん看護専門看護師が力強い協力者として、高野さんとパートナーシップを組みながら学習会を継続することが表明され、会場は緩和ケア病棟のさらなる進化を確信するムードに包みこまれました。
病棟のリーダー格となる看護師らがニューマン理論を自分自身の力として取り組んだ日々の実践を教材に、自分たちの施設で学習会を継続する…皆さん、わくわくしませんか? ぜひ、第2報を期待しましょう。きっと学習会の推進者として、もっと具体的な成功例が紹介されるはずです。
さらなる詳細は、看護実践の科学で紹介されます。
これから高野さんと一緒に学習会を企画・運営に参画する梶原さん
提供者:三浦里織(首都大学東京)今泉郷子(東海大学)
ファシリテーター:熱方智和子(聖マリアンナ医科大学病院)
がん化学療法看護認定看護師の教育課程に携わっている三浦さんは、急性期のがん医療の中心である化学療法看護において、全体論の見方に立った認定看護師の育成は必須であると考えていました。そこでプラクシスコースの機会を通して、教員と研修生同志の対話に取り組んだ過程を報告しました。
がん化学療法のスペシャリストを目指す研修生たちは、化学療法を受けるがん患者とその家族の苦悩に寄り添い、セルフケア支援のみならず、生きる意味への問いなど、専門的で高度なケアを担います。さらに資格認定後は、組織から自施設のがん化学療法看護の質の向上に寄与するためのリーダー的役割を求められます。三浦さんは、このような高度な実践者へと成長するためには、研修生たちが看護師としての自分に向き合うために、自己内省の促進や研修生同士の交流支援など取り入れてきました。しかし、研修生が自己の看護実践のありようを認識し、成長するための機会にするためには、さらに工夫が必要だと考えるようになり、プラクシスコースでの学習機会を生かして、ニューマン理論に基づいた認定看護師教育プログラムに取り組みました。
プログラムには、研修者同士が自己の看護実践についての語りを通して、自分自身のケアパターンへの気づきと洞察を深めることを目的に、臨地実習の時期を中心に1グループ4~5人で3回の対話を持つこと、対話のたびに研修生は、自己の看護実践のありように関する気づきをジャーナルに記載すること、次回の対話の際には前回記載したジャーナルを読み返してから新たな対話に入るということを盛り込みました。対話の促進者としての役を通して三浦さんは、最初に研修生が実習施設という新たな環境で萎縮しながらも、仲間同士に励まされ互いに頑張ろうとしている様子に気づきました。研修生が、自ら自己の看護実践のパターンに気づけるような促しが必要だと考え、第2回の対話では「ニューマン理論に基づくケアパターンの探求」という講義資料を用いて、研修者らが実習中の看護について対話が促されるように関わってみました。しかし三浦さんは、研修者同士の対話が深まっていないと感じ、それは三浦さん自身が対話の方法へのこだわりから抜け出せなくなったという自己のパターンへの洞察を得たと紹介しました。
参加者との対話では、このプログラムの可能性について話が及び、看護師自身のケアパターンの認識が患者にとってどのような意義があるのかについて研修者とともに話し合い、ニューマン理論に立ち戻りながら自己の実践を変えていくという取り組みを推進することが重要なのではないかという示唆を得ました。以上は、パイロットスタディの結果であるために、この内容を踏まえて、来年度にはさらに発展させて取り組む計画を立てています。
参加者との対話のなかで“自己のパターン認識の体験”を語る三浦さん
上記の3つの発表のファッシリテーターを務めてくださった方々は、発表の内容がさらに進化・発展するようにと、その役割を果たされました。発表者とファシリテーター、そして来場された皆さまとのパートナーシップの重要性がここでも明確に開示しました。
今回は対話Ⅰ、対話Ⅱ、対話Ⅲの中から興味のあるテーマごとにグループを作りディスカッションをしました。それぞれのグループでは、一人ひとりの体験とテーマが結び付き、ニューマン理論の観点から、それまでの体験を洞察した内容が話し合われました。参加者にとってニューマン理論の観点からそれまでの個人的な体験を照らし合わせ、新たな気づきを得る機会となりました。
宮原副理事長は、13回目を迎えるにあたり、それまでの対話集会の歩みについて報告しました。特に、今回の対話集会では、臨床や教育の場でリーダーとして活躍する看護師たちが、ニューマン理論の導入に取り組み、実践し、変化が生み出された証を紹介されたことは、それぞれの現場にとどまらず、本NPOにとっても進化につながる大きな原動力となることを信じ活動を続けていく方針を表明しました。
副理事長(宮原)スピーチ
ロゴマークの意味を説明する遠藤理事長
今回の対話集会では、看護師にとってのニューマン理論との出逢いや、それを実践に取り入れることの意義を改めて学ぶことができました。前日開催された第2回学習会とのつながりも感じながら、参加された皆さま一人ひとりが明日への一歩に向けたヒントを持ち帰れただろうと感じています。2020年には、第14回の対話集会を、同じく首都大学東京(2020.4月から東京都立大学に名称が変更になります)開催いたします。そのときに、またお会いできることを楽しみにしております。
文責:久山幸恵・宮原知子
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